ヒット力

【著者】長田美穂【出版社】日経BP社
【発刊年月】2002年01月28日【本体価格】1,600円
【ページ数】342p【ISBN】4-8222-4266-8

世の中の潮流としては、健康志向で減塩、薄味のものが好まれています。でもお母さんは、濃い味のものであっても子供がそれでごはんを食べると、喜ぶんです。「子供がごはんを食べる」という部分を、素直に訴える商品にしよう、と決めました
本書 「味の素・ごはんがススムくん」の項より抜粋

モノが売れない時代と言われて久しい。その理由としては、魅力的な商品がないからだ、不況、生活に必要なモノはすべて行き渡ったからだなど、さまざま挙げられているが、実際のところはわからない。また、ヒットした商品やベストセラー商品がないわけでもない。

本書では、そんな難しい時代にもかかわらず売れた、その商品の背景を、膨大かつ緻密な取材を通して描き出している力作である。取り上げている商品は、「アイボ」から始まって、「宇多田ヒカル」「動物占い」「甘栗むいちゃいました」、さらには「牛角」までと幅広い。

筆者は、かつての商品開発トレンドのキーワードであった「技術」「安さ」「マーケティング」を踏まえて、2000年代の商品開発は、商品開発者が「経営者」になっていることを、仮説としてあげている。一社員がそこまでの意気込みがなければ、ヒット商品が作れない時代が来たとしているのだ。

アイデアが優れていても、デフレ傾向にある市場に耐えられる安さと品質を持つ商品を作り出し、全国の消費者に行き渡らせる「ヒット商品」に仕立てるためには、設備投資、材料など一切の価格交渉、流通ルートの確保など、全方位展開で「企業の存続」をかけた勝負に出ないと無理だと説く。と、難しいことを書いたが、そんな堅苦しいことを抜きにして、本書は読み物としてとても面白い。ヒット商品(本書に取り上げられている商品はどれも「大ホームラン商品」だが…)が生まれる背景にあるサクセスストーリーが、同じビジネスパーソンとして、ワクワクするものばかりだからだ。

また、意外な発見も提示してくれる。その1つとして、キリンビバレッジ・聞茶の項では、商品コンセプトの中心となった「茶芸(=細長い茶碗に茶を注ぎ、飲む器に移して、最初の茶碗の香を楽しむという作法)」は、実は歴史の浅い「遊び」であることを、本書は紹介している。興味深い。

本書は、ヒット商品と、その商品にかかわるさまざまな情報を通じて、今の世の中(=正確には少し前の)が持つ「時代性」を描き出している。読後、何故モノは売れなくなったのかは分からないが、何故売れるものがあったのか、ということは分かる。面白い本であった。