2003年の「痛み」

【著者】水木楊【出版社】PHP研究所
【発刊年月】2001年09月28日【本体価格】1,100円
【ページ数】157p【ISBN】4-569-61871-5

(前略)高齢社長の中には、総会でのキツイ質問をおそれるあまり、失禁をする者すらいる。そんな連中はみなオムツをして総会に臨んでいるのを知る者は少ない。
本書 39p より抜粋

激動する国際情勢の影響によって、首相がやると宣言していた「痛みを伴う構造改革」が見えにくくなってきている。マスメディアの報道をつぶさに点検しても、よくわからない、というのが実際のところだろう。今日紹介する本は、この「改革」が実施された場合、起き得るかもしれない「近未来」をシミュレーションしたものだ。

話は2001年12月2日から始まる。主人公は赤司光二、47歳。つい1カ月前までは中堅広告代理店の部付部長だったが、その子会社に転籍になっている。専業主婦の妻、就職を断念してフリーターを気取る長男、私立高校生の長女という家族。浜田山のマンション暮らしだ。これらの家族の2003年9月までの物語なのだ。

主人公の会社は倒産してしまう。同窓生はホームレスになって、デモに加わり首相官邸に突入していく。妻はリサイクルショップで働き、様々な節約生活術(=風呂水は一週間に一度しか取り替えない、ストッキングに玉ねぎを入れて保存する…など)で家計を支える。娘は公立高校に変わる…景気が悪化するとともに、登場人物たちの暮らしぶりは、変化していく。

さらに、ショッキングなのは、高校卒業後の娘が大学進学を断念して東南アジアの工場に集団就職していくシーンだ。真っ暗闇の最悪シナリオを描けば描くほど、みなさんは、そうならないためにはどうしたらいいかを真剣になって考えるはずである、と本書腰帯にあるが、まさにその通り。どうすれば良いのか、評者である私は、読後に考え込んでしまった。

小説部分に随所に出てくるキーワードは、新聞にも良く出ている言葉でもある。丁寧に解説が施してある。また、この小説のブリーフィングと題して、今回の構造改革を推し進めると、何故最悪シナリオが起動してしまうのか、を解説してくれている。これもわかりやすい。今のニュースを読み解くための知識のある程度は、この本で得られてしまう。掻い摘んで知っておくためにも、お勧めである。

本書はリアリティをセールスポイントにしながら、ディテールに荒唐無稽な部分があり、予測ではないシミュレーションであっても、首を傾げざる終えない部分もある。しかし、それを補って余りあるほど、突きつける課題は大きく、そして深い。今、すべてのビジネスパーソンが考えるべきテーマを、この本は熱く提示している。すぐに読むべきだろう。